「ウクライナ」(17)  松里公孝・東京大学法学部教授 2022.7.4

HM 2025年09月06日 カード18 いいね0

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単語カード

  • 民族領域連邦制
    ソビエト連邦が採用した、民族ごとの領域に自治権を与える制度。各領域には特定の「基幹民族」が指定されており、ソ連末期には、この基幹民族が自民族のエゴを優先する民族主義を台頭させる原因となった
  • 連邦離脱法
    1990年4月3日にソ連で制定された法律。連邦構成共和国がソ連から離脱する際、その共和国内の自治単位(例: 南オセチア)が住民投票によってソ連に残留する権利を保障していた。多くの連邦構成共和国は独立時にこの法律の手続きを無視した。
  • 国際法上の原則(ウティ・ポシデティス・ユリス)
    国家が解体する際、それまでの行政境界線がそのまま国境に転化するという国際法上の原則。第一次世界大戦後の民族自決権の反省から、第二次世界大戦後は支配的な法理となった。ソ連解体後の新国家承認や国境線画定に機械的に適用されたことが、自治単位の分離運動との間に問題を生じさせた。
  • 国連憲章第4条
    国際連合に加盟する国家は「義務を履行する能力と意思」が求められると定める国連憲章の条項。しかし、実際にはこの能力は審査されず、意思も自己申告で済むため、事実上空文化している。この条項の空文化が「破綻国家」を生み出す土壌となった。
  • 国連憲章第2条
    国連に加盟すれば、その国家は「平等、独立、内政不干渉」の原則によって守られると定める国連憲章の条項。第4条の能力審査が機能しないため、能力の低い国家でもこの条項によって保護され、深刻な内部紛争を抱える「破綻国家」を存続させる要因となっている。
  • 破綻国家
    国連が加盟資格の実証を求めなくなった結果、深刻な内部紛争や内戦を抱えながらも国連に加盟し、国家としての能力が不足している国々。この現象は、旧植民地や旧社会主義連邦の解体期に顕著に現れ、現代の破綻国家の大半がこれらの地域に発生している。
  • 1、「親国家の連邦化」
    分離紛争の解決策の一つ。親国家が連邦制を導入し、分離地域に領域自治権を与えることで、分離勢力を再び国内に統合しようとする方法。国連や仲裁国に好まれるが、分離勢力が武装解除をしても親国家が約束を果たす保証がない「コミットメント問題」など、当事者間の課題が多い。ミンスク合意がその事例。
  • 「コミットメント問題」
    親国家の連邦化という紛争解決策において、分離勢力が先に約束(武装解除など)を果たしても、親国家側がその後に約束(自治権付与など)を履行する保証がないこと。国際的な強制力が弱いため、この問題が生じやすく、解決策の実現を困難にしている。
  • ミンスク合意
    ドンバス紛争を解決するために、2014年と2015年に結ばれた国際合意(ミンスクI、ミンスクII)。ウクライナの連邦化や停戦などが盛り込まれたが、紛争当事者双方が実行する意思に欠け、長らく停滞していた。2019年のノルマンディ・フォーマット首脳会談で、ゼレンスキー大統領がこの合意の解釈に同意しないと表明したことが、プーチン大統領が対ウクライナ戦争案を温め始めるきっかけの一つになったとされる
  • 2、「ランド・フォー・ピース (Land for Peace)」
    分離紛争の解決策の一つ。分離勢力が実効支配している土地の一部を親国家に献上する代わりに、親国家が分離勢力の独立を承認するという方法。国境線を変更する必要があるため国際組織からの抵抗が多いが、国境変更と承認が同時遂行されるため「コミットメント問題」が起きにくいという利点がある。
  • 3、「パトロン国家による承認と囲い込み」
    分離紛争の解決策の一つ。パトロン国家が分離勢力を独立国家として承認することで、その分離勢力を自国の保護下に置き、事実上の保護国とする方法。2008年のロシアによる南オセチアとアブハジアの承認がこの典型例。国際社会からの承認は限定的であり、分離勢力は経済的に孤立し、パトロン国家への依存が強まる。
  • 4、「親国家による軍事的制圧」
    分離紛争の解決策の一つ。親国家が軍事力を用いて分離勢力を武力で制圧し、元の領土統制を回復する方法。成功すれば最もすっきりして後腐れのない解決法とされる。しかし、通常、親国家に十分な軍事的能力や政治的安定が求められるが、分離紛争を抱える国にはこれが難しい場合が多い。
  • 5、「パトロン国家による親国家の破壊」
    分離紛争の解決策の中で最も過激な形態。パトロン国家が、分離紛争を「解決」するためと称して、親国家そのものを破壊しようと試みるもの。ロシア・ウクライナ戦争がこの典型例であり、甚大な人的被害と国際社会の非承認という結果を招き、紛争が恒久化する。
  • 「多民族地域主義」
    ソ連末期、高齢化などによる人口移動で多民族化した地域(例: ドンバス)で、民族主義に対抗して台頭した新しい指導理念。複数の民族が共存する地域としてのアイデンティティを重視するもので、民族主義との激突が不可避であった。
  • ユーロマイダン革命
    2014年にウクライナで発生した親欧州派の革命。当時のヤヌコーヴィチ大統領を追放し、ウクライナの政治状況を大きく変化させた。ドンバス地域では、この革命が地域の政治的空白を生み、ウクライナからの分離を目指す急進派に運動の主導権を握らせるきっかけとなった。
  • ドネツク人民共和国
    2014年4月7日、ウクライナからの分離を宣言し、ドンバス地域に樹立された未承認国家の一つ。当初は社会革命的・左派的な性格を持ち、富裕層を排除し「人民」の名を冠した。ロシアからの支援の下、2014年11月に大統領制に移行した。住民や政治家の中には、ウクライナ本体を破壊することでしかドンバスを守れないと考える者もいた。
  • マレーシア機撃墜事件
    2014年にウクライナ東部でマレーシア航空機が撃墜された事件。ドンバス紛争が本格化する中で発生し、この事件はプーチン大統領がドンバスへの対応をより積極的にするきっかけの一つとなった。
  • ノルマンディ・フォーマット首脳会談
    2019年12月にパリで行われた、ウクライナ、ロシア、ドイツ、フランスの4カ国首脳による会談。この会談でゼレンスキー大統領がミンスク合意の解釈に同意しないとプーチン大統領に明確に伝えたことが、プーチン大統領が「対ウクライナ戦争案」を温め始めるきっかけになったとされている。
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