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Ⅰ一般的要因の活用
一般的要因の活用の意義価格形成要因のうち一般的要因は、不動産の価格形成全般に影響を与えるものであり、鑑定評価手法の適用における各手順において常に考慮されるべきものであり、価格判定の妥当性を検討するために活用しなければならない。 -
Ⅱ取引事例等の活用
取引事例等の選択要件"取引事例等は、次の要件の全部を備えるもののうちから選択するものとする。
⑴次の不動産に係るものであること
①近隣地域又は同一需給圏内の類似地域若しくは必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域(同一需給圏内の類似地域等)に存する不動産。
②対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等における同一需給圏内に存し対象不動産と代替、競争等の関係が成立していると認められる不動産(同一需給圏内の代替競争不動産)。
⑵取引事例等に係る取引等の事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること。
⑶時点修正をすることが可能なものであること
⑷地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。" -
同一需給圏内の代替競争不動産を選択する場合の具体例(少なくとも2つ)"①戸建住宅地域について、近辺で大規模なマンションの開発がみられるとともに、立地に優れ高度利用が可能なことから、マンション敵地と認められる大規模な画地が存する場合
②中高層事務所として用途が鈍化された地域において、交通利便性に優れ広域的な集客力を有するホテルが存する場合
③住宅地域において、幹線道路に近接して、広域的な商圏を持つ郊外型の大規模小売店舗が存する場合
④中小規模の事務所ビルが集積する地域において、敷地の集約化により完成した卓越した競争力を有する大規模事務所ビルが存する場合" -
事情補正の定義取引事例等に係る取引等が特殊な場合等を含み、これが当該取引事例等に係る価格等に影響を及ぼしている時に適切に補正することをいう。
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時点修正の定義時点修正とは、取引事例等に係る取引等の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準に変動があると認められる場合に、当該取引事例等の価格等を価格時点の価格等に修正することをいう。
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地域要因の比較及び個別的要因の比較の方法"①取引事例等に係る不動産が同一需給圏内の類似地域等に存するもの又は同一需給圏内の代替競争不動産である場合においては、近隣地域と当該事例に係る不動産の存する地域との地域要因の比較及び対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較を、
②取引事例等に係る不動産が近隣地域に存するものである場合においては、対象不動産と当該事例に係る不動産の個別的要因の比較をそれぞれ行う必要がある。" -
原価法
Ⅰ意義
原価法の意義原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について原価修正を行って対象不動産の試算価格(積算価格)を求める手法である。 -
Ⅱ適用方法
再調達原価の定義対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額をいう。 -
再調達原価の構成要素(建物)建物の再調達原価は、建設請負により、請負者が発注者において直ちに使用可能な状態で引き渡す場合を想定し、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設費に発注者が直接負担すべき通常ぼ付帯費用を加算して求めるものとする。
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再調達原価の構成要素(土地)土地の再調達原価jは、その素材となる土地の標準的な取得原価に当該土地の標準的な造成費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して求めるものとする。
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再調達原価の構成要素(建物及びその敷地)建物及びその敷地の再調達原価は、まず、土地の再調達原価(再調達原価が把握できない既成市街地における土地にあっては取引事例比較法及び収益還元法によって求めた更地の価格に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算した額)又は借地権の価格に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用w加算した額を求め、この価格に建物の再調達原価を加算して求めるものとする。
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2.減価修正
減価修正の定義減価修正とは、減価の要因に基づき発生した減価額を対象不動産の再調達原価から控除して価格時点における対象不動産の適正な積算価格を求めることをいう。 -
減価の要因の分類と具体例"減価の要因は、物理的要因、機能的要因、経済的要因に分けられる。
①物理的要因
物理的要因としては、不動産を使用することによって生ずる摩擦及び破損、時の経過又は自然的作用によって生ずる老朽化並びに偶発的損傷があげられる。
②機能的要因
機能的要因としては、不動産の機能的陳腐化、すなわち、建物と敷地との不適応、設計の不良、型式の旧式化、設備の不足及びその能率の低下等があげられる。
③経済的要因
経済的要因としては、不動産の経済的不適応、すなわち、近隣地域の衰退、不動産と付近の環境との不適合、不動産と代替、競争等の関係にある不動産又は付近の不動産との比較における市場性の減退等があげられる。" -
減価額を求める2つの方法の定義と併用を使用する理由"減価額を求める方法には、耐用年数に基づく方法と観察原価法がある。
①耐用年数に基づく方法は対象不動産の価格時点における経過年数及び経済的残存耐用年数の和として把握する方法である。
耐用年数に基づく方法は定額法、定率法によって、規則性のある減価額を把握する方法であり、外部観察では発見しにくい原価要因を把握、反映しやすいが、偶発的な損傷等の個別的な減価の実態について、把握、反映しにくい。
②一方、観察減価法は、対象不動産について、設計、設備の機能性、維持管理の状態、補修の状況、付近の環境との適合の状態等各減価の要因を調査することにより減価額を直接求める方法である。観察原価法は、不動産鑑定士の実地調査に基づき個別的な減価の実態を把握、反映しやすいが、外部からの観察のみでは発見しにくい原価要因等を見落とすおそれがある。
このように、2つの方法は、一方の長所が短所を補う、相互補完の関係にあることから、制度の高い減価額を査定するためには、2つの方法を併用する必要がある。" -
取引事例比較法
Ⅰ意義
取引事例比較法の定義取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の収集を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正を行い、かつ、地域要因及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格(比準価格)を求める手法である。 -
Ⅱ適用方法
多数の取引事例を収集する必要性"豊富に収集された取引事例の分析検討は、個別の取引に内在する特殊な事情を排除し、時点修正率を把握し、及び価格形成要因の対象不動産の価格への影響の程度を知るうえで欠くことのできないものである。
つまり、多数の取引事例を相互に比較検討することにより、特殊な事情により割高又は割安となっている事例を見つけ出し、選択を見送ったり、事情補正することが出来る。また、多数の取引事例を時系列的に分析することにより、辞典修正率を求めることができる。さらに、特定の価格形成要因を異にする取引事例を分析検討することにより、当該価格形成要因が価格に与える影響の程度を把握し、地域要因及び個別的要因の格差の比較を的確に行うことが出来る。" -
事情補正を要する特殊な事情の具体例(減価の場合について、最低でも2つずつ)"補正に当たり減額すべき特殊な事情
①業者又は系列会社間における中間利益の取得を目的として取引が行われたとき。
②買い手が不動産に関し明らかに知識や情報が不足している状態において、過大な額で取引が行われたとき。等" -
事情補正を要する特殊な事情の具体例(増額の場合について、最低でも2つずつ)"補正に当たり増額すべき特殊な事情
①売主が不動産に関し明らかに知識や情報が不足している状態において、過少な額で取引が行われたとき。
②相続、転勤等により売り急いで取引が行われたとき。" -
時点修正率の原則的な求め方時点修正率は、価格時点以前に発生した多数の取引事例について時系列的な分析を行い、さらに国民取得の動向、財政事情及び、金融情勢、公共投資の動向、建築着工の動向、不動産取引の推移等の社会的及び経済的要因の変化、土地利用の規制、税制等の行政的要因の変化等の一般的要因の動向を総合的に勘案して求めるべきである。
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地域要因及び個別的要因の間接的な比較方法の手順"⑴取引事例が同一需給圏内の類似地域等に存する場合
①近隣地域と事例の存する類似地域等に、それぞれ個別的要因が標準的な土地(標準画地)を設定する。
②取引事例の個別的要因と類似地域等の標準画地の個別的要因とを比較して(標準的補正)、類似地域等の標準的画地価格を求める。
③類似地域等の地域要因と近隣地域の地域要因とを比較して、近隣地域の標準的画地価格を求める。
④近隣地域の標準的画地の個別的要因と対象不動産の個別的要因とを比較して、対象不動産の標準価格を求める。
⑵取引事例が近隣地域に存する場合
近隣地域に標準画地を設定のうえ、上記②(標準化補正)と④のみを行う。" -
収益還元法
Ⅰ意義
収益還元法の定義収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格(収益価格)を求める手法である。 -
直接還元法とDCF法の定義"直接還元法は、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法をいう。
DCF法は、連続する複数の期間に発生する純収益及び、復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割引、それぞれを合計する方法をいう。" -
土地残用法と建物残予報の定義"土地残余法は、不動産が敷地と建物等との結合によって生じている場合において(対象不動産が更地である場合においては、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定し)、収益還元法以外の手法によって建物等の価格を求め、当該建物及びその敷地に基づく純収益から建物等に帰属する純収益を控除した残余の純収益を還元利回りで還元する手法をいう。
建物残余法は、不動産が土地と建物等との結合によって構成されている場合において、収益還元法以外の手法によって敷地の価格を求め、当該不動産に基づく純収益から敷地に帰属する純収益を控除した残余の純収益を還元利回りで還元する手法をいう。" -
有機還元法とインウッド式の定義"有期還元法は、償却前の純収益に割引率と有限の収益期間とを基礎とした複利年金現価率を乗じて収益価格を求める方法をいう。
償却前の純収益に割引率と有限の収益期間を基礎とした複利年金現価率を乗じて得た額に、収益期間満了時における土地の価格、及び建物等の残存価格又は建物等の撤去費をそれぞれ現在価値に換算した額を加減して収益価格を求める方法をいう。" -
直接還元法とDCF法の優劣"直接還元法は一期間の純収から資産価格を求める方法であるのに対し、DCF法は、連続する複数の期間の純収益と復帰価格を予測しそれらをキャッシュフロー表で明示した上で試算価格を求める方法である。すなわち、DCF法は、直接還元法と比較して将来の純収益や復帰価格等を明示する点において、「資産価格が導かれる過程に関する説明性」に優れている。
しかし、直接還元法においても、将来の純収益の変動等は純収益を標準化する過程や、還元利回りを求める過程において織り込まれている。したがって、理論上は、同一不動産について直接還元法とDCF法を併用した場合に、求められるそれぞれの収益価格に差異は生じない。" -
Ⅱ適用方法
1.純収益
総収益の構成要素(賃貸用不動産、賃貸以外の事業の用に供する不動産)"賃貸用不動産の総収益は、一般に、支払い賃料に預り金的性格を有する補償金等の運用益、賃料の前払的性格を有する権利金等の運用益及び償却額ならびに駐車場使用料等のその他収入を加えた額(支払賃料等)とする。
賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益は、一般に売上高とする。ただし、賃貸以外の事業の用に供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払い賃料等相当額、又は、賃貸に供することを想定することが出来る場合における支払い賃料等をもって総収益とすることができる。" -
総費用の構成要素(賃貸用不動産、賃貸以外の事業の用に供する不動産)"賃貸用不動産の総費用は、減価償却費(償却前の純収益を求める場合には、計上しない。)、維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)、公租公課(固定資産税、都市計画税等)、損害保険料等の諸費用等を加算して求めるものとする。
賃貸以外の事業の用に供する不動産の総費用は、売上原価、販売費及び一般管理費等を加算して求めるものとする。ただし、賃貸以外の事業のように供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払い賃料等相当額、又は、賃貸に供することを想定することができる場合における支払い賃料等をもって総収益とした場合、総費用は上記賃貸用不動産の算定の例によるものとする。" -
純収益の性格"純収益は、永続的なものと非永続的なもの、償却前のものと焼却後のもの等、総収益及び総費用の把握の仕方により異なるものであり、それぞれ収益価格を求める方法及び還元利回り又は割引率を求める方法とも密接な関連があることに留意する必要がある。
なお、直接還元法における純収益は、対象不動産の初年度の純収益を採用する場合と標準化された純収益を採用する場合があることに留意しなければならない。" -
2.還元利回り及び割引率
両者の意義(定義・共通点・相違点)"還元利回り及び割引率は、共に不動産の収益性を表し、収益価格を求めるために用いるものであるが、基本的には次の違いがある。
還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。
割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率であり、還元利回りに含まれる変動予測と予測に伴う不確実性のうち、収益見通しにおいて考慮された連続する複数の期間に発生する純収益や復帰価格の変動予測に係るものを除くものである。" -
還元利回り及び割引率を求める方法"⑴類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
この方法は、対象不動産と類似の不動産の取引事例から求められる利回り(又は割引率)をもとに、取引事例及び取引事情並びに地域要因及び個別的要因の違いに応じた補正を行うことにより求めるものである。
⑵借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法
この方法は、対象不動産の取得の際の資金調達上の構成要素(借入金及び自己資金)に係る各還元利回り(又は各割引率)を各々の構成割合により加重平均して求めるものである。
⑶土地と建物に係る還元利回りから求める方法
この方法は、対象不動産が建物及びその敷地である場合に、その物理的な構成要素(土地及び建物)に係る各還元利回りを各々の価格の構成割合により加重平均して求めるものである。
⑷割引率との関係から求める方法
この方法は、割引率をもとに対象不動産の純収益の変動率を考慮して求めるものである。
⑸金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法
この方法は、債券等の金融資産の利回りをもとに、対象不動産の投資対象としての危険性、非流動性、管理の困難性、資産としての安全性等の個別性を加味することにより求めるものである。" -
2.事業用不動産
事業用不動産の定義及び具体例"事業用不動産とは、賃貸用不動産又は、賃貸以外の事業のように供する不動産のうち、その収益性が当該事業(賃貸用不動産にあっては賃借人による事業)の経営の動向に強く影響を受けるものをいう。
事業用不動産の具体例としては、
①ホテル等の宿泊施設
②ゴルフ場等のレジャー施設
③病院、有料老人ホーム等の医療・福祉施設
④百貨店や多数の店舗により構成されるショッピングセンター等の商業施設等があげられる。" -
事業用不動産の収益性に当たって留意すべき事項"事業用不動産に係る収益性等の分析に当たっては、事業経営に影響を及ぼす社会経済情勢等、当該不動産の存する地域において代替、競争等の関係にある不動産と比べた優劣及び競争力の程度等について中長期的な観点から行うことが重要である。
また、依頼者等から提出された事業実績や事業計画等は、上記の分析における資料として有用であるが、当該資料のみに依拠するのではなく、当該事業の運営主体として通常想定される事業者(運営事業者)の視点から、当該実績・計画等の持続性・実現性について十分に検討しなければならない。"
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