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1 あきのたのあきのたの かりほのいほの とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ
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2 はるすぎてはるすぎて なつきにけらし しろたへの ころもほすてふ あまのかぐやま
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3 あしびきのあしびきの やまどりのをの しだりをの ながながしよを ひとりかもねむ
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4 たごのうらにたごのうらに うちいでてみれば しろたへの ふじのたかねに ゆきはふりつつ
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5 おくやまにおくやまに もみぢふみわけ なくしかの こゑきくときぞ あきはかなしき
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6 かささぎのかささぎの わたせるはしに おくしもの しろきをみれば よぞふけにける
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7 あまのはらあまのはら ふりさけみれば かすがなる みかさのやまに いでしつきかも
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8 わがいほはわがいほは みやこのたつみ しかぞすむ よをうぢやまと ひとはいふなり
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9 はなのいろははなのいろは うつりにけりな いたづらに わがみよにふる ながめせしまに
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10 これやこのこれやこの ゆくもかへるも わかれては しるもしらぬも あふさかのせき
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11 わたのはらわたのはら やそしまかけて こぎいでぬと ひとにはつげよ あまのつりぶね
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12 あまつかぜあまつかぜ くものかよひぢ ふきとぢよ をとめのすがた しばしとどめむ
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13 つくばねのつくばねの みねよりおつる みなのがは こひぞつもりて ふちとなりぬる
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14 みちのくのみちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに みだれそめにし われならなくに
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15 きみがためきみがため はるののにいでて わかなつむ わがころもでに ゆきはふりつつ
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16 たちわかれたちわかれ いなばのやまの みねにおふる まつとしきかば いまかへりこむ
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17 ちはやぶるちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みづくくるとは
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18 すみのえのすみのえの きしによるなみ よるさへや ゆめのかよひぢ ひとめよくらむ
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19 なにはがたなにはがた みじかきあしの ふしのまも あはでこのよを すぐしてよとや
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20 わびぬればわびぬれば いまはたおなじ なにはなる みをつくしても あはむとぞおもふ
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21 いまこむといまこむと いひしばかりに ながつきの ありあけのつきを まちいでつるかな
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22 ふくからにふくからに あきのくさきの しをるれば むべやまかぜを あらしといふらむ
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23 つきみればつきみれば ちぢにものこそ かなしけれ わがみひとつの あきにはあらねど
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24 このたびはこのたびは ぬさもとりあへず たむけやま もみぢのにしき かみのまにまに
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25 なにしおはばなにしおはば あふさかやまの さねかづら ひとにしられで くるよしもがな
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26 をぐらやまをぐらやま みねのもみぢば こころあらば いまひとたびの みゆきまたなむ
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27 みかのはらみかのはら わきてながるる いづみがは いつみきとてか こひしかるらむ
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28 やまざとはやまざとは ふゆぞさびしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもへば
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29 こころあてにこころあてに をらばやをらむ はつしもの おきまどはせる しらぎくのはな
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30 ありあけのありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし
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31 あさぼらけあさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしののさとに ふれるしらゆき
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32 やまがはにやまがはに かぜのかけたる しがらみは ながれもあへぬ もみぢなりけり
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33 ひさかたのひさかたの ひかりのどけき はるのひに しづごころなく はなのちるらむ
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34 たれをかもたれをかも しるひとにせむ たかさごの まつもむかしの ともならなくに
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35 ひとはいさひとはいさ こころもしらず ふるさとは はなぞむかしの かににほひける
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36 なつのよはなつのよは まだよひながら あけぬるを くものいづこに つきやどるらむ
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37 しらつゆにしらつゆに かぜのふきしく あきののは つらぬきとめぬ たまぞちりける
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38 わすらるるわすらるる みをばおもはず ちかひてし ひとのいのちの をしくもあるかな
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39 あさぢふのあさぢふの をののしのはら しのぶれど あまりてなどか ひとのこひしき
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40 しのぶれどしのぶれど いろにいでにけり わがこひは ものやおもふと ひとのとふまで
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41 こひすてふこひすてふ わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもひそめしか
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42 ちぎりきなちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ すゑのまつやま なみこさじとは
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43 あひみてのあひみての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもはざりけり
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44 あふことのあふことの たえてしなくは なかなかに ひとをもみをも うらみざらまし
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45 あはれともあはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな
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46 ゆらのとをゆらのとを わたるふなびと かぢをたえ ゆくへもしらぬ こひのみちかな
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47 やへむぐらやへむぐら しげれるやどの さびしきに ひとこそみえね あきはきにけり
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48 かぜをいたみかぜをいたみ いはうつなみの おのれのみ くだけてものを おもふころかな
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49 みかきもりみかきもり ゑじのたくひの よるはもえ ひるはきえつつ ものをこそおもへ
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50 きみがためきみがため をしからざりし いのちさへ ながくもがなと おもひけるかな
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51 かくとだにかくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもひを
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52 あけぬればあけぬれば くるるものとは しりながら なほうらめしき あさぼらけかな
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53 なげきつつなげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる
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54 わすれじのわすれじの ゆくすゑまでは かたければ けふをかぎりの いのちともがな
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55 たきのおとはたきのおとは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なほきこえけれ
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56 あらざらむあらざらむ このよのほかの おもひでに いまひとたびの あふこともがな
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57 めぐりあひてめぐりあひて みしやそれとも わかぬまに くもがくれにし よはのつきかな
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58 ありまやまありまやま ゐなのささはら かぜふけば いでそよひとを わすれやはする
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59 やすらはでやすらはで ねなましものを さよふけて かたぶくまでの つきをみしかな
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60 おほえやまおほえやま いくののみちの とほければ まだふみもみず あまのはしだて
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61 いにしへのいにしへの ならのみやこの やへざくら けふここのへに にほひぬるかな
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62 よをこめてよをこめて とりのそらねは はかるとも よにあふさかの せきはゆるさじ
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63 いまはただいまはただ おもひたえなむ とばかりを ひとづてならで いふよしもがな
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64 あさぼらけあさぼらけ うぢのかはぎり たえだえに あらはれわたる せぜのあじろぎ
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65 うらみわびうらみわび ほさぬそでだに あるものを こひにくちなむ なこそをしけれ
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66 もろともにもろともに あはれとおもへ やまざくら はなよりほかに しるひともなし
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67 はるのよのはるのよの ゆめばかりなる たまくらに かひなくたたむ なこそをしけれ
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68 こころにもこころにも あらでうきよに ながらへば こひしかるべき よはのつきかな
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69 あらしふくあらしふく みむろのやまの もみぢばは たつたのかはの にしきなりけり
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70 さびしさにさびしさに やどをたちいでて ながむれば いづこもおなじ あきのゆふぐれ
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71 ゆふさればゆふされば かどたのいなば おとづれて あしのまろやに あきかぜぞふく
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72 おとにきくおとにきく たかしのはまの あだなみは かけじやそでの ぬれもこそすれ
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73 たかさごのたかさごの をのへのさくら さきにけり とやまのかすみ たたずもあらなむ
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74 うかりけるうかりける ひとをはつせの やまおろしよ はげしかれとは いのらぬものを
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75 ちぎりおきしちぎりおきし させもがつゆを いのちにて あはれことしの あきもいぬめり
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76 わたのはらわたのはら こぎいでてみれば ひさかたの くもゐにまがふ おきつしらなみ
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77 せをはやみせをはやみ いはにせかるる たきがはの われてもすゑに あはむとぞおもふ
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78 あはぢしまあはぢしま かよふちどりの なくこゑに いくよねざめぬ すまのせきもり
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79 あきかぜにあきかぜに たなびくくもの たえまより もれいづるつきの かげのさやけさ
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80 ながからむながからむ こころもしらず くろかみの みだれてけさは ものをこそおもへ
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81 ほととぎすほととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる
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82 おもひわびおもひわび さてもいのちは あるものを うきにたへぬは なみだなりけり
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83 よのなかよよのなかよ みちこそなけれ おもひいる やまのおくにも しかぞなくなる
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84 ながらへばながらへば またこのごろや しのばれむ うしとみしよぞ いまはこひし
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85 よもすがらよもすがら ものおもふころは あけやらで ねやのひまさへ つれなかりけり
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86なげけとてなげけとて つきやはものを おもはする かこちがほなる わがなみだかな
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87 むらさめのむらさめの つゆもまだひぬ まきのはに きりたちのぼる あきのゆふぐれ
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88 なにはえのなにはえの あしのかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや こひわたるべき
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89 たまのをよたまのをよ たえなばたえね ながらへば しのぶることの よわりもぞする
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90 みせばやなみせばやな をじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかはらず
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91 きりぎりすきりぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねむ
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92 わがそではわがそでは しほひにみえぬ おきのいしの ひとこそしらね かわくまもなし
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93 よのなかはよのなかは つねにもがもな なぎさこぐ あまのをぶねの つなでかなしも
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94 みよしののみよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり
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95 おほけなくおほけなく うきよのたみに おほふかな わがたつそまに すみぞめのそで
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96 はなさそふはなさそふ あらしのにはの ゆきならで ふりゆくものは わがみなりけり
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97 こぬひとをこぬひとを まつほのうらの ゆふなぎに やくやもしほの みもこがれつつ
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98 かぜそよぐかぜそよぐ ならのをがはの ゆふぐれは みそぎぞなつの しるしなりける
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99 ひともしひともをし ひともうらめし あぢきなく よをおもふゆゑに ものおもふみは
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100 ももしきやももしきや ふるきのきばの しのぶにも なほあまりある むかしなりけり
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