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今来むと言ひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな
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吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風をあらしといふらむ
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月見れば千々にものこそ悲しけれわが身ひとつの秋にはあらねど
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このたびは幣も取りあへず手向山紅葉の錦神のまにまに
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名にし負はば逢坂山のさねかづら人に知られでくるよしもがな
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小倉山峰のもみぢ葉心あらば今ひとたびのみゆき待たなむ
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みかの原わきて流るるいづみ川いつ見きとてか恋しかるらむ
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山里は冬ぞさびしさまさりける人目も草もかれぬと思へば
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心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花
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有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし
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朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪
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山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり
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ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
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誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに
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人はいさ知る人にせむ高砂の花ぞ昔の香ににほひける
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夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ
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白露に風の吹きしく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞ散りける
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忘らるる身をば思はず誓ひてし人の命の惜しくもあるかな
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浅茅生の小野の篠原忍ぶれどあまりてなどか人の恋しき
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忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで
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恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか
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契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山波越さじとは
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逢ひ見ての後の心にくらぶれば昔は物を思はざりけり
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逢ふことの絶えてしなくはなかなかに人をも身をも恨みざらまし
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あはれよもいふべき人は思ほえで身のいたづらになりぬるべきかな
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由良の門を渡る舟人かぢを絶え行方も知らぬ恋の道かな
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八重葎しげれる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり
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風をいたみ岩打つ波のおのれのみ砕けて物を思ふころかな
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御垣守衛士のたく火の夜は燃え昼は消えつつ物をこそ思へ
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君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな
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