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ああおとうとよ 君を泣く 君死にたもうことなかれ 末に生まれし君なれば 親のなさけはまさりしも 親は刃(やいば)をにぎらせて 人を殺せとおしえしや 人を殺して死ねよとて 二十四までをそだてしや…君死に給うことなかれ(与謝野晶子)
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汚れつちまつた悲しみに 今日も小雪の降りかかる 汚れつちまつた悲しみに 今日も風さへ吹きすぎる 汚れつちまつた悲しみは たとへば狐の皮裘 汚れつちまつた悲しみは 小雪のかかつてちぢこまる 汚れつちまつた悲しみは なにのぞむなくねがふなく 汚れつちまつた悲しみは 倦怠のうちに死を夢む 汚れつちまつた悲しみに いたいたしくも怖気づき 汚れつちまつた悲しみに なすところなく日は暮れる汚れつちまつた悲しみに(中原中也)
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追ひもせずに追はれもせずに枯木のかげに 立つて見つめてゐるまつ白い雲の おもてにながされた私の影を―― (かなしく青い形は見えて来る) 私はきいてゐるさう! たしかに 私はきいてゐるその影のうたつてゐるのを…… それは涙ぐんだ鼻声にかへらない 昔の過ぎた夏花のしらべをうたふ 《あれは頬白 あれは鶸 あれは樅の樹 あれは私……私は鶸 私は樅の樹……》こたへもなしに 私と影とは眺めあふいつかもそれはさうだつたやうに 影はきいてゐる私の心にうたふのを ひつすぢの古い小川のさやぎのやうに 溢れる泪のうたふのを……雪のおもてに――真冬のかたみに(立原道造)
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どうしようもないわたしが歩いてゐる うしろすがたのしぐれてゆくか 鉄鉢の中へも霰(作者名のみ)種田山頭火
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智恵子は東京に空が無いといふ、ほんとの空が見たいといふ…あどけない話(幸村光太郎)
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おうい雲よ ゆうゆうと…雲(山村暮鳥)
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母よ――淡くかなしきもののふるなり 紫陽花いろのもののふるなり…乳母車(三好達治)
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青いお空のそこふかく、海の小石のそのように…星とたんぽぽ(金子みすゞ)
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トテモキレイナ花。イッパイデス…青い花(草野心平)
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月夜の晩に、ボタンが一つ 波打際に、落ちていた…月夜の浜辺(中原中也)
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夢見たものは ひとつの幸福 ねがったものは ひとつの愛…夢みたものは(立原道造)
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わたしを束ねないで あらせいとうの花のように…私を束ねないで(新川和江)
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あの青い空の波の音が聞えるあたりに 何かとんでもないおとし物を…かなしみ(谷川俊太郎)
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