昔、男、初冠して、平城の京、春日の里に、しるよしして、狩りに往にけり。
土地を領有する
ある暮れ方に都を出でて、嵯峨の方へぞあくがれ行く。
さまよい出る
もの思ふ人の魂はげにあくがるるものになむありける。
宙にさまよう
月の明きはしも、過ぎにし方、行末まで思ひ残さるることなく、心もあくがれ、めでたくあはれなること、たぐひなくおぼゆ。
うわの空になる
そのころ、宋朝よりすぐれたる名医わたって、本朝にやすらふことあり。
とどまる
院宣宣旨のなりたるに、しばしもやすらふべからず。
ためらう
何事をかうちいづる言の葉にせん。
口に出して言う
御様をやつし、いやしき下臈のまねをして、日吉社にご参籠あつて、七日七夜が間、祈り申させ給ひけり。
地味な格好にする
網代車の昔おぼえてやつれたるにて出で給ふ。
地味な格好になっている
遣水心細く、音細くおとなひたり。
音を立てる
むすめ多かりと聞きて、なま君達めく人々もおとなひ言ふ、いとあまたありけり。
手紙を出す
やんごとなき女房の、うちそばみてゐ給へるを見給へば、わが思ふ人なり。
横を向く
その御方に、うちふしといふ者の娘、左京といひて候ひけるを、源中将かたらひてなむと、人々笑ふ。
交際する
すみける男、夜深く来ては、まだ暁に帰りなどす。
通う
十一月、十二月の降り凍り、六月の照りはたたくにも、さはらず来たり。
妨げられる
すさまじきもの。…方違へに行きたるに、あるじせぬ所。
客にごちそうする
藤原良近といふをなむ、まらうとざねにて。
客の主たる人
その日はあるじまうけしたりける。
客にごちそうする
侮らはしげにもてなすは、めざましうて、なげのいらへをだにせさせ給はず。
振る舞う
なほきこえ給へ。わざと懸想だちてももてなさじ。
取り扱う
鎌倉の海に鰹といふ魚は、かの境には双なきものにて、このごろもてなすものなり。
もてはやす
よき人は、ひとへに好けるさまにも見えず、興ずるさまもなほざりけり。
おもしろがる
あこぎ、おとなになりね。いと心およすげためり。
成長する
「何とまれ、言へかし」とのたまふを、人々もおよすげて見奉る。
大人びる
いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひ給ひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。
寵愛を受ける
道もさりあへず立つ折もあるぞかし。
避ける
かの左衛門督はえなられじ。また、そこにさられば、こと人こそはなるべかなれ。
断る
知らぬわざしてまろも困じにたり。そこも眠たげに思ほしためり。
疲れる
何とにかあらむ、かきくらして涙こぼるる。
悲しみが心を暗くする
乞食、路のほとりに多く、憂へ悲しむ声耳に満てり。
訴える
舟の中にや老いをばかこつらむ。
不平を言う
折ふしいたはること候ひて下り候はず。
病気になる
心ことに設けの物などいたはりてしたまへ。
骨を折る
常の使ひよりは、この人よくいたはれ。
世話をする
なやましう侍りつれば、しばしためらひて。
静養する
ややためらひて仰せ言伝へきこゆ。
気を静める
日ごろ月ごろしるきことありてなやみわたるが、おこたりぬるもうれし。
病気が良くなる
身にやむごとなく思ふ人のなやむを聞きて、いかにいかにとおぼつかなきことを嘆くに、おこたりたる由、消息聞くもいとうれし。
病気で苦しむ
人におくれて、四十九日の仏事に、ある聖を請じ侍りしに、説法いみじくして、皆人涙を流しけり。
先立たれる
果ての日は、いと情けなう、互ひに言ふこともなく、我かしこげに物ひきしたため、ちりぢりに行き別れぬ。
処理する
これを思ふに、女なりともなほ寝所などはしたためてあるべきなり。
用意する
いづ方にも、若き物ども酔ひすぎたち騒ぎたるほどのことは、えしたためあへず。
取り締まる