追ひもせずに追はれもせずに枯木のかげに 立つて見つめてゐるまつ白い雲の おもてにながされた私の影を―― (かなしく青い形は見えて来る) 私はきいてゐるさう! たしかに 私はきいてゐるその影のうたつてゐるのを…… それは涙ぐんだ鼻声にかへらない 昔の過ぎた夏花のしらべをうたふ 《あれは頬白 あれは鶸 あれは樅の樹 あれは私……私は鶸 私は樅の樹……》こたへもなしに 私と影とは眺めあふいつかもそれはさうだつたやうに 影はきいてゐる私の心にうたふのを ひつすぢの古い小川のさやぎのやうに 溢れる泪のうたふのを……雪のおもてに――
真冬のかたみに(立原道造)