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Casey 2025年07月24日 カード28 いいね0

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無機化学II
  • [2021過去問]以下の錯体を命名せよ。

    [CoCl₂(NH₃)₄]⁺

    [Pt(CN)₄]²⁻
    テトラアンミンジクロリドコバルト(III)イオン
    テトラシアニド白金(II)酸イオン

    解説

    錯体の命名規則に従い、配位子をアルファベット順(アンミン ammine → クロリド chlorido)に並べます。アンミン(NH₃)が4つなので「テトラアンミン」、クロリド(Cl⁻)が2つなので「ジクロリド」となります。錯体全体の電荷が+1、アンミン(0)とクロリド(-1×2)の電荷を考慮すると、中心金属コバルト(Co)の酸化数は+3です。錯体はカチオンなので、最後に「イオン」を付けます。

    配位子はシアニド(CN⁻)が4つなので「テトラシアニド」となります。錯体全体の電荷が-2、シアニドの電荷が-1なので、中心金属白金(Pt)の酸化数は+2です。錯体全体がアニオン(負の電荷を持つ)なので、金属名の語尾に「酸」を付けて「白金酸」とします。最後に「イオン」を付けます。
  • [CoCl₂(bpy)(NH₃)₂]⁺ (bpy = 2,2'-ビピリジン)の考えられる異性体を全て書け。
    合計4種類の異性体(1組の鏡像異性体と、クロリドがトランス配置、アンミンがトランス配置)

    解説
    この錯体はコバルト(III)を中心とする八面体型錯体です。異性体は、2つのクロリド配位子と2つのアンミン配位子の位置関係によって生じます。

    両方の配位子がシス-シス配置: 2つのCl⁻が隣り合わせ(シス)、かつ2つのNH₃も隣り合わせ(シス)の配置です。この構造は対称面を持たないためキラルであり、鏡像異性体(エナンチオマー)が一組存在します。

    クロリドがトランス配置: 2つのCl⁻が対角線上(トランス)にある配置です。この場合、2つのNH₃は必ずシス位になります。この構造は対称面を持つためアキラルです。

    アンミンがトランス配置: 2つのNH₃が対角線上(トランス)にある配置です。この場合、2つのCl⁻は必ずシス位になります。この構造も対称面を持つためアキラルです。
    以上、1のケースで2種類、2と3のケースでそれぞれ1種類ずつ、合計4種類の異性体が存在します。
  • 以下のイオン種の原子状態での基底項を決定せよ。

    Cr³⁺

    Cu²⁺
    ⁴F

    ²D

    解説

    Cr³⁺はd³電子配置です。フントの規則に従い、まずスピン多重度を最大にするため、3つの電子を異なるd軌道に平行スピンで配置します (S = 3/2)。これによりスピン多重度は2S+1 = 4となります。次に、軌道角運動量を最大にするため、電子をmₗ = +2, +1, 0の軌道に配置します (L = 3)。L=3は記号「F」で表されるため、基底項は⁴Fとなります。

    Cu²⁺はd⁹電子配置です。これはd¹⁰の満員状態から電子が1つ欠けた「正孔(ホール)」と見なせ、d¹配置と同様に考えることができます。不対電子は1つなので、スピン多重度は2です。軌道角運動量Lは、不対電子が入る軌道のmₗの絶対値の最大値なのでL=2です。L=2は記号「D」で表されるため、基底項は²Dとなります。
  • Ni(II)や Pd(II)は平面四角形錯体となることが多い。電子配置を考えてその理由を説明せよ。
    Ni(II)やPd(II)はd⁸電子配置であり、平面四角形構造をとると、エネルギーが著しく高い一つのd(x²-y²)軌道を空にしたまま、残りの4つのd軌道に8つの電子が収まり、大きな配位子場安定化エネルギー(LFSE)を得られるため。

    解説
    平面四角形錯体の場では、d軌道はエネルギー的に分裂し、特にd(x²-y²)軌道が他の軌道よりも著しく高いエネルギー準位になります。d⁸電子配置を持つNi(II)やPd(II)では、8個の電子がエネルギーの低い4つのd軌道にきれいに収まることで、不安定なd(x²-y²)軌道を空に保つことができます。この電子配置はエネルギー的に非常に安定であるため、これらのイオンは平面四角形構造を好んで形成します。
  • 以下にd⁵電子配置をもつ正八面体形錯体の田辺-菅野ダイアグラムを示す。これに関して、設問1) から3) に答えよ。

    ダイアグラムでは、横軸の値が次第に大きくなっていくと、A点で基底状態が ⁶A₁ から ²T₂ に変わっている。それぞれの基底状態の電子配置を、例ならって答えよ。

    1)の現象の意味するところを、配位子場分裂パラメーター Δo とスピン対生成エネルギー P を用いて説明せよ。

    この化合物は、基底状態が⁶A₁の場合は薄い色を呈するのに対して、²T₂の場合は色が濃くなる。その理由を説明せよ。
    (1) ⁶A₁: (t₂g)³(eg)²、 ²T₂: (t₂g)⁵(eg)⁰

    (2) A点はスピンクロスオーバーが起こる点である。A点の左側(弱配位子場)ではΔo < Pのため高スピン状態(⁶A₁)が基底となり、右側(強配位子場)ではΔo > Pのため低スピン状態(²T₂)が基底となる。

    (3) ⁶A₁を基底状態とする錯体のd-d遷移はスピン多重度が変化するためスピン禁制であり、吸収強度が弱く薄い色となる。一方、²T₂を基底状態とする錯体のd-d遷移はスピン多重度が変化しないスピン許容遷移であるため、吸収強度が強く濃い色となる。

    解説

    (1) ⁶A₁はスピン多重度6なので不対電子5つの高スピン状態であり、電子配置は(t₂g)³(eg)²です。²T₂はスピン多重度2なので不対電子1つの低スピン状態であり、電子配置は(t₂g)⁵(eg)⁰です。

    (2) この基底状態の変化はスピンクロスオーバーと呼ばれます。配位子場が弱い領域(Δo < P)では、電子は対を作るよりエネルギーの高いeg軌道に入る方が有利なため、高スピン状態が安定です。配位子場が強くなる(Δo > P)と、eg軌道に上がるよりt₂g軌道内で対を作る方が有利になり、低スピン状態が安定になります。A点は、この高スピンと低スピンのエネルギーが逆転する点です。

    (3) 色の濃さは遷移の起こりやすさ(選択律)で決まります。⁶A₁からの励起は⁴T₁などへの遷移となり、スピン多重度が6→4と変化するため「スピン禁制」で、非常に起こりにくく色は薄くなります。²T₂からの励起は他の²Eなどへの遷移となり、スピン多重度が2→2で変化しないため「スピン許容」で、起こりやすく色は濃くなります。
  • ある錯体の脱離基Xが進入基Yに置換する反応 (下式)は交代機構(I 機構)で進行する。この反応の反応エネルギー図 (横軸: 反応座標、縦軸: ポテンシャルエネルギー)を示し、機構を簡潔に説明せよ。
    ML₅X + Y → ML₅Y + X
    交代機構は、結合の切断と生成が同時に起こる一段階の反応であり、安定な中間体は経由せず、単一の遷移状態(活性錯体)を経て進行する。反応エネルギー図は、反応物から生成物へ、一つのエネルギーの山を越える曲線で示される。

    解説
    交代機構(I機構)は、有機化学のSₙ2反応に似た協奏的な反応です。反応物(ML₅X + Y)から、古い結合(M-X)が切れかかり、新しい結合(M-Y)ができかかっている一瞬のエネルギーが最も高い状態である「遷移状態」[L₅M···X···Y]を経由します。その後、エネルギーが下がり、生成物(ML₅Y + X)となります。そのため、反応エネルギー図は、反応物と生成物の間に、安定な中間体(谷)がなく、一つのエネルギーの山(遷移状態)だけが存在する形になります。
  • [PtCl₄]²⁻を出発物質とし、NH₃、PPh₃ を反応させて cis- および trans-[PtCl₂(NH₃)(PPh₃)] を合成する経路を示せ。なお、配位子におけるσ供与性の強さの順序は NH₃ < Cl⁻ < PPh₃ である。
    cis体の合成: [PtCl₄]²⁻ → ( +NH₃ ) → [PtCl₃(NH₃)]⁻ → ( +PPh₃ ) → cis-[PtCl₂(NH₃)(PPh₃)]
    trans体の合成: [PtCl₄]²⁻ → ( +PPh₃ ) → [PtCl₃(PPh₃)]⁻ → ( +NH₃ ) → trans-[PtCl₂(NH₃)(PPh₃)]

    解説
    この合成は、トランス効果の強さの順(PPh₃ > Cl⁻ > NH₃)を利用して行います。トランス効果とは、ある配位子がその真向かい(トランス位)の配位子を脱離しやすくさせる効果です。
    cis体の合成では、先にNH₃を導入します。次にPPh₃を導入する際、NH₃よりもトランス効果の強いCl⁻の向かい側にあるCl⁻が置換されるため、PPh₃はNH₃の隣(シス位)に結合します。
    trans体の合成では、先にトランス効果の最も強いPPh₃を導入します。次にNH₃を導入する際、PPh₃の真向かいにあるCl⁻が極めて脱離しやすくなっているため、NH₃はその場所(トランス位)に結合します。
  • 以下の遷移金属錯体の構造を描き、イオン結合モデルで考えた際における、それぞれの金属原子の酸化数、および金属と配位子から供与された電子数の和を記せ。

    [Fe(η⁵-C₅H₅)₂]

    trans-[Rh(Cl)(CO)(PPh₃)₂]
    (1) 構造:鉄原子を2つのシクロペンタジエニル環が挟んだサンドイッチ構造。
    酸化数:+2
    電子数:18電子

    (2) 構造:ロジウム原子を中心とする平面四角形構造で、ClとCOが互いにトランス位、2つのPPh₃が互いにトランス位にある。
    酸化数:+1
    電子数:16電子

    解説

    (1) フェロセンの構造です。イオンモデルでは、配位子のシクロペンタジエニル(Cp)をアニオンCp⁻(電荷-1)として扱います。Cp⁻が2つで電荷-2、錯体全体は中性なので、鉄(Fe)の酸化数は+2です。Fe(II)はd⁶で6電子、Cp⁻は6電子供与体なので2つで12電子、合計は6 + 12 = 18電子です。

    (2) バスカ錯体の構造です。ClをアニオンCl⁻(電荷-1)、COとPPh₃を中性配位子として扱います。錯体全体は中性なので、ロジウム(Rh)の酸化数は+1です。Rh(I)はd⁸で8電子、Cl⁻、CO、PPh₃は全て2電子供与体なので、配位子からの電子は2+2+(2×2)=8電子です。合計は8 + 8 = 16電子となり、平面四角形錯体で安定な16電子則を満たします。
  • [2023過去問]以下の錯体について化学式を書け。

    テトラアンミンジクロリドコバルト(III)

    ビス(η⁵-シクロペンタジエニル)ジメチルチタン(IV)
    (1) [CoCl₂(NH₃)₄]⁺

    (2) [Ti(η⁵-C₅H₅)₂(CH₃)₂]

    解説

    (1) 中心金属はコバルト(Co)、配位子はアンミン(NH₃)が4つとクロリド(Cl)が2つです。コバルトの酸化数が+3、アンミンは電荷0、クロリドは電荷-1なので、錯体全体の電荷は (+3) + (2 × -1) = +1 となります。化学式では、金属記号の次に配位子をアルファベット順(Cl, N)で表記します。

    (2) 中心金属はチタン(Ti)、配位子はη⁵-シクロペンタジエニル(C₅H₅)が2つとメチル基(CH₃)が2つです。チタンの酸化数が+4、シクロペンタジエニルはアニオンとして電荷-1、メチル基もアニオンとして電荷-1なので、錯体全体の電荷は (+4) + (2 × -1) + (2 × -1) = 0 となります。
  • [Cr(H₂O)₆]²⁺イオンの溶液は淡い青緑色を示すが、CrO₄²⁻は濃い黄色を呈する。これらの錯体の色に関して、各遷移の起源を明らかにし、強度の違いも説明せよ。
    [Cr(H₂O)₆]²⁺の淡い色は、選択律で禁制されているd-d遷移に由来する。一方、CrO₄²⁻の濃い色は、許容されている配位子-金属間電荷移動(LMCT)遷移に由来するためである。

    解説
    [Cr(H₂O)₆]²⁺の中心金属Cr(II)はd⁴電子配置であり、その色はd電子が異なるd軌道間を移動するd-d遷移によって生じます。この錯体は対称中心を持つ八面体構造のため、d-d遷移はラポルテの選択律で「禁制」とされ、光の吸収が非常に弱く、色は淡くなります。
    一方、CrO₄²⁻の中心金属Cr(VI)はd⁰電子配置であり、d電子を持たないためd-d遷移は不可能です。その濃い色は、酸素配位子(O²⁻)から中心金属クロム(VI)へ電子が移動する配位子-金属間電荷移動(LMCT)遷移に由来します。この遷移は選択律で「許容」されており、光を非常に強く吸収するため、色は濃くなります。
  • 次の金属イオンの原子状態における基底項を示せ。

    Ti³⁺

    Ni²⁺
    (1) ²D

    (2) ³F

    解説

    (1) Ti³⁺はd¹電子配置です。不対電子が1つなので、全スピン量子数S=1/2、スピン多重度は2S+1=2となります。軌道角運動量Lは、電子が入るd軌道のmₗの最大値なのでL=2です。L=2は記号「D」で表されるため、基底項は²Dとなります。

    (2) Ni²⁺はd⁸電子配置です。これはd¹⁰の満員状態から電子が2つ欠けた状態と見なせ、d²配置と同様に考えます。フントの規則に従い、スピン多重度を最大にするためS=1(多重度3)、軌道角運動量を最大にするためL=3(記号F)となり、基底項は³Fとなります。
  • 同じ配位子を持つ錯体では、四面体型錯体では八面体型錯体に比べて配位子場分裂エネルギーが小さい。なぜか?そのために八面体型錯体に比べてどのような性質の違いが見られるか?
    理由:四面体型錯体は配位子の数が少なく(4個 vs 6個)、かつどの配位子もd軌道の方向に直接向かっていないため、反発が弱く分裂エネルギーが小さくなる。
    性質の違い:分裂エネルギーが常に小さいため、四面体型錯体はほとんど常に高スピン状態となる。

    解説
    配位子場分裂は、金属のd軌道と配位子の負電荷との静電反発によって生じます。四面体型錯体の分裂エネルギー(Δt)が八面体型(Δo)より小さい理由は2つあります。第一に、配位子の数が4個と少ないこと。第二に、配位子がd軌道の軸上からずれた位置にあるため、d軌道電子との直接的な反発が八面体型よりも弱いことです。
    この結果、四面体型錯体の分裂エネルギーΔtは常に小さく、電子が対を作るためのエネルギー(スピン対生成エネルギー)を上回ることがほとんどありません。そのため、電子は対を作らずに高い準位の軌道へ入る、高スピン状態の錯体となります。
  • 次の語句について、それぞれ50字程度で説明せよ。簡単な図を用いても良い。

    強磁性

    スピン対生成エネルギー

    ヤーン・テラー効果
    強磁性:異なる金属中心上の電子スピンが、低温で互いに同じ向きに整列することで、全体として強い磁石の性質を示す現象。

    スピン対生成エネルギー:電子配置において、同じ軌道内に2つの電子を逆スピンで収容する際に必要となるエネルギー。電子間の静電反発による。

    ヤーン・テラー効果:縮退した軌道に電子が不均等に占有された分子が、自発的に歪んで縮退を解き、エネルギー的に安定化する現象。

    解説

    強磁性は、鉄などの磁石で見られる性質です。各原子が持つ磁石の性質(スピン)が、低温下で一斉に同じ方向を向くことで、物質全体として強力な磁力を生み出します。

    スピン対生成エネルギー(P)は、配位子場分裂エネルギー(Δ)と競合し、錯体が高スピン状態(Δ

    ヤーン・テラー効果は、特に八面体錯体において、eg軌道に不均等に電子が入るd⁹配置(例: Cu²⁺)や高スピンd⁴配置(例: Cr²⁺)などで顕著に見られ、軸方向の結合が伸びるなどの構造の歪みを引き起こします。
  • 以下の(a)および(b) に当てはまる生成物(錯体)を書け。なお、生成物の幾何構造がわかるように書くこと。
    (a) 2つのH(ヒドリド)がRhに対してシス位に付加した、6配位の八面体型錯体。
    (b) Me(メチル基)とI(ヨージド)がIrに付加した、6配位の八面体型錯体。

    解説
    (a) はウィルキンソン触媒への水素(H₂)の酸化的付加反応です。Rh(I)がRh(III)に酸化され、16電子錯体が18電子錯体になります。2つのH原子は、結合していた元の面に対して同じ側から結合する(シス付加)ため、生成物は2つのHが隣り合ったシス体の八面体型錯体となります。
    (b) はバスカ錯体へのヨウ化メチル(MeI)の酸化的付加反応です。Ir(I)がIr(III)に酸化され、16電子錯体が18電子錯体になります。メチル基とヨウ素がそれぞれ金属に結合し、6配位の八面体型錯体を形成します。
  • trans-[PtCl(NO₂)(py)₂]に対し、1当量のpyを反応させる配位子置換反応は、会合機構で進行する。本反応の反応機構をエネルギー図を使いながら、立体化学がわかるように示せ。なお、トランス効果の序列は、NO₂⁻ > Cl⁻ > pyである。
    反応は、トランス効果の最も強いNO₂⁻の向かい側にあるCl⁻が置換される形で進行する。会合機構であるため、5配位の三方両錐型中間体を経由する。エネルギー図は、反応物と生成物の間に、この中間体に対応するエネルギーの谷を持つ二つの山を描いた形となる。

    解説

    反応位置の決定: 最も強いトランス効果を持つNO₂⁻が、その真向かい(トランス位)にあるCl⁻との結合を弱め、脱離しやすくさせます。そのため、新しく入ってくるピリジン(py)は、このCl⁻と置き換わります。

    反応機構: 会合機構では、まず進入するpyがPtに結合し、配位数が一つ増えた5配位の中間体を形成します。この中間体は、三方両錐型の構造をとります。その後、この中間体から最も脱離しやすいCl⁻が離れていき、生成物である[Pt(NO₂)(py)₃]⁺が生成します。

    エネルギー図: 反応エネルギー図は、横軸に反応座標、縦軸にエネルギーをとります。反応物から始まり、最初の遷移状態の山を越えて、5配位中間体の谷に至ります。次に、2番目の遷移状態の山を越えて、生成物へと至る、二山一谷の形を描きます。
  • 金属錯体の酸化還元反応には、二つの機構(内圏機構および外圏機構)が知られる。内圏機構について簡潔に説明せよ。なお、図を用いて説明しても良い。
    内圏機構とは、2つの金属錯体が反応する際に、一方の配位子が両方の金属に結合して橋渡し(ブリッジ)となり、その橋渡しの配位子を通じて電子が移動する反応機構である。

    解説
    内圏機構は、電子移動が起こる前に、まず2つの金属イオンが1つの配位子を共有する「橋かけ錯体」という中間体を形成するのが最大の特徴です。この橋渡し役の配位子は、一方の錯体から提供されます。橋が架かると、その橋を通じて効率的に電子が一方の金属からもう一方の金属へ移動します。電子移動後、橋かけ錯体は分解して生成物となります。この機構が起こるためには、少なくとも一方の錯体が配位子置換に対して活性(ラバイル)であり、かつ橋渡し可能な配位子(例: Cl⁻, SCN⁻)を持っている必要があります。
  • [授業中の課題・例題]以下の錯体を命名、または化学式を書け。

    [CoBr₂(H₂O)₄]⁺

    [Fe(CN)₆]³⁻

    ペンタアンミンクロリドコバルト(III)

    プロミドトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)
    テトラアクアジブロミドコバルト(III)イオン

    ヘキサシアニド鉄(III)酸イオン

    [CoCl(NH₃)₅]²⁺

    [RhBr(PPh₃)₃]

    解説

    (1) 配位子はアクア(H₂O)が4つ、ブロミド(Br⁻)が2つです。アルファベット順(アクア→ブロミド)で命名します。コバルトの酸化数は+3です。

    (2) 配位子はシアニド(CN⁻)が6つです。鉄(Fe)の酸化数は+3です。錯体全体がアニオンなので、金属名は「鉄(III)酸」となります。

    (3) 中心金属はコバルト(III)、配位子はアンミン(NH₃)が5つとクロリド(Cl⁻)が1つです。全体の電荷は(+3) + (-1) = +2です。

    (4) 中心金属はロジウム(I)、配位子はプロミド(Br⁻)が1つとトリフェニルホスフィン(PPh₃)が3つです。錯体全体は中性です。
  • 八面体錯体[CoCl₂(en)(NH₃)₂]について考えられる異性体を全て書け。
    合計4種類の異性体(1組の鏡像異性体と、それらとはジアステレオマーの関係にある2種類の幾何異性体)が存在する。

    解説
    中心金属コバルトに二座配位子のエチレンジアミン(en)が1つ、クロリド(Cl⁻)が2つ、アンミン(NH₃)が2つ配位した八面体錯体です。Cl⁻とNH₃の配置によって異性体が生じます。

    シス-クロロ, シス-アンミン: 2つのCl⁻と2つのNH₃がそれぞれシス位にある配置です。この構造はキラルであるため、1組の鏡像異性体(エナンチオマー)が存在します(2種類)。

    トランス-クロロ, シス-アンミン: 2つのCl⁻がトランス位にある配置です。この構造は対称面を持つためアキラルです(1種類)。

    シス-クロロ, トランス-アンミン: 2つのNH₃がトランス位にある配置です。この構造も対称面を持つためアキラルです(1種類)。
  • 次の錯体の配位子場安定化エネルギー(LFSE)を求めよ。

    [Fe(H₂O)₆]²⁺

    [Fe(CN)₆]³⁻
    -0.4Δo

    -2.0Δo

    解説
    LFSEは電子配置 (t₂g)ˣ(eg)ʸ を用いて LFSE = (-0.4x + 0.6y)Δo の式で計算します。

    (1) Fe²⁺はd⁶配置です。H₂Oは弱配位子場配位子なので高スピン状態となり、電子配置は(t₂g)⁴(eg)²です。LFSE = (-0.4×4 + 0.6×2)Δo = -0.4Δo となります。

    (2) Fe³⁺はd⁵配置です。CN⁻は強配位子場配位子なので低スピン状態となり、電子配置は(t₂g)⁵(eg)⁰です。LFSE = (-0.4×5 + 0.6×0)Δo = -2.0Δo となります。
  • [Cr(OH₂)₆]²⁺ の構造を推測せよ。
    ヤーン・テラー効果により歪んだ、正方ひずみ八面体構造。

    解説
    中心金属のCr²⁺はd⁴電子配置です。配位子のH₂Oは弱配位子場配位子であるため、錯体は高スピン状態となり、電子配置は(t₂g)³(eg)¹となります。eg軌道(d(z²)とd(x²-y²))は縮退していますが、そこに電子が1つだけ不均等に占有されているため、ヤーン・テラー効果が働きます。これにより、錯体は完全な正八面体から、軸方向に結合が伸びるなどして歪んだ「正方ひずみ八面体」構造をとることで安定化します。
  • 以下の電子配置における基底項を決定せよ。
    (a) (3d)⁵
    (b) (3d)³
    (a) ⁶S
    (b) ⁴F

    解説
    フントの規則に従って基底項を決定します。
    (a) d⁵配置では、スピン多重度を最大にするため5つの電子が全て平行スピンで別々の軌道に入ります (S = 5/2, 多重度6)。このとき、mₗの合計は (+2)+(+1)+0+(-1)+(-2)=0 となるため、L=0(S項)です。よって基底項は⁶Sです。
    (b) d³配置では、3つの電子が平行スピンで入るのでS=3/2、多重度は4です。Lを最大にするためmₗ = +2, +1, 0の軌道に入るのでL=3(F項)です。よって基底項は⁴Fです。
  • (2p)² および (3d)⁹ の基底項を求めよ。
    (2p)² : ³P
    (3d)⁹ : ²D

    解説
    (2p)²配置では、スピン多重度を最大にするため2つの電子が異なるp軌道(例: mₗ = +1, 0)に平行スピンで入ります (S=1, 多重度3)。このときL=1+0=1(P項)となるため、基底項は³Pです。
    (3d)⁹配置は、d¹⁰の満員状態から電子が1つ欠けた「正孔」と見なせ、d¹配置と同様に考えられます。不対電子1つなのでS=1/2(多重度2)、軌道角運動量はL=2(D項)となるため、基底項は²Dです。
  • [Cr(NH₃)₆]³⁺ の吸収スペクトルと田辺・菅野ダイアグラムから、ΔoとBを計算せよ。
    B ≈ 657 cm⁻¹, Δo ≈ 21,700 cm⁻¹

    解説

    スペクトルから2つの遷移エネルギーν₁(⁴T₂g ← ⁴A₂g) = 21,550 cm⁻¹とν₂(⁴T₁g ← ⁴A₂g) = 28,500 cm⁻¹を読み取ります。

    エネルギーの比 ν₂/ν₁ ≈ 1.32 を計算します。

    d³の田辺・菅野ダイアグラム上で、縦軸のエネルギー比が1.32となる場所を探すと、横軸の値が Δo/B ≒ 33.0 となります。

    そのときのν₁に対応する縦軸の値を読み取ると E/B = 32.8 です。

    Bを計算します: B = E / (E/B) = 21,550 / 32.8 ≈ 657 cm⁻¹。

    Δoを計算します: Δo = (Δo/B) × B = 33.0 × 657 ≈ 21,700 cm⁻¹。
  • [Cr(H₂O)₆]³⁺ の最初の2つのスピン許容四重項吸収帯のエネルギーを予測せよ。ただし、Δo = 17,600 cm⁻¹、B = 700 cm⁻¹とする。
    第1吸収帯: 約17,500 cm⁻¹ (⁴T₂g ← ⁴A₂g)
    第2吸収帯: 約24,500 cm⁻¹ (⁴T₁g ← ⁴A₂g)

    解説
    Cr³⁺はd³配置なので、d³の田辺・菅野ダイアグラムを使用します。

    横軸の値を計算します: Δo/B = 17,600 / 700 ≈ 25.1。

    ダイアグラムの横軸が25.1の点を見ます。

    その点での縦軸の値を読み取ります。第1吸収帯(⁴T₂g)のE/Bは約25、第2吸収帯(⁴T₁g)のE/Bは約35です。

    それぞれのエネルギーEを計算します。
    E₁ = (E/B)₁ × B ≈ 25 × 700 = 17,500 cm⁻¹
    E₂ = (E/B)₂ × B ≈ 35 × 700 = 24,500 cm⁻¹
  • [Pt(NH₃)₄]²⁺と[PtCl₄]²⁻から trans- および cis-[PtCl₂(NH₃)₂]を合成する経路を、トランス効果を利用して示せ。
    trans体の合成: [Pt(NH₃)₄]²⁺ にCl⁻を逐次反応させる。
    cis体の合成: [PtCl₄]²⁻ にNH₃を逐次反応させる。

    解説
    この合成はトランス効果の強さの順(Cl⁻ > NH₃)を利用します。
    trans体の合成では、[Pt(NH₃)₄]²⁺にまずCl⁻を1つ導入します。次にCl⁻を導入する際、トランス効果の強いCl⁻の向かい側にあるNH₃が置換されやすいため、2つ目のCl⁻は最初のCl⁻のトランス位に入り、トランス体が生成します。
    cis体の合成では、[PtCl₄]²⁻にまずNH₃を1つ導入します。次にNH₃を導入する際、トランス効果の強いCl⁻の向かい側にあるCl⁻が置換されやすいため、2つ目のNH₃は最初のNH₃のシス位に入り、シス体(シスプラチン)が生成します。
  • (a)フェロセン および (b)[RhMe(PPh₃)₄]の正式名称を述べよ。
    (a) ビス(η⁵-シクロペンタジエニル)鉄(II)
    (b) メチルテトラキス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)

    解説
    (a) フェロセンは、鉄(Fe)を2つのシクロペンタジエニル(Cp)環が挟むサンドイッチ錯体です。Cpは5つの炭素全てで結合するためη⁵と表記します。CpはアニオンCp⁻(-1)と見なすため、Feの酸化数は+2です。
    (b) 配位子はメチル基(Me)と4つのトリフェニルホスフィン(PPh₃)です。アルファベット順でメチルが先になります。MeはアニオンMe⁻(-1)と見なすため、ロジウム(Rh)の酸化数は+1です。複雑な配位子PPh₃が4つあるため、接頭辞は「テトラキス」を用います。
  • Os₂(CO)₉の構造を書け。この化合物は18電子則を満たす。
    2つのオスミウム(Os)原子がOs-Os単結合で結ばれ、さらに1つのCO配位子が両方のOs原子に結合する架橋構造を持つ。各Os原子には、それぞれ4つの末端CO配位子も結合している。

    解説
    この構造では、各Os原子が18電子則を満たします。片方のOs原子について電子数を数えると、Osの価電子数(8族)が8個、4つの末端COから8個、Os-Os結合から1個、1つの架橋COから1個となり、合計は 8+8+1+1=18電子となります。このように二核錯体を形成することで、価電子数が偶数の金属でも、架橋構造などを通じて安定な18電子配置をとることができます。
  • [ピックアップ問題]
    自由イオンのスペクトル項 S, P, D, F, G は、正八面体錯体を形成した際に、それぞれどの分子項記号に分裂(相関)しますか?
    S → A₁g

    P → T₁g

    D → E₉ + T₂g

    F → A₂g + T₁g + T₂g

    G → A₁g + E₉ + T₁g + T₂g
よく頑張りました
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